もう一人の原告、小林さんの場合、複数名のチームで客先に常駐しました。リーダーは課長代理の小林さん、そして、チームのメンバーには課長のAさん(仮)がいました。東和システムのチームメンバーと、客先の担当者さん 2名が同じスペースで作業をされています。

平成 19年 2月一ヶ月間実質 20日間だけの短期の予定で、作業量の見積もりはオーバーしていたけれど、お客様との調整には限界があって、やむなく引き受けたそうです。

裁判官から、リーダーとメンバーの職制の逆転はよくかるのか?と質問がありました。

小林さんは、わからない、(このプロジェクトについては)プロジェクト責任者に示された組織だったと答えていました。Aさんではなく小林さんの方がチーム・リーダーに任命された理由は、自分の方が経験が長いからではないかと思われる、とのことです。

小林さんとAさんの他にもチーム・メンバーはいらっしゃいました。彼らの有休や外出等の申請は、小林さんが受け取ったことは無いそうです。小林さんは、Aさんが処理して本社に出していたことを後で知ったそうです。メンバーの休みの連絡などはAさんの携帯電話にかかってきて、小林さんもそれを横で聞いて把握できていたそうです。

小林さんのリーダーとしての主な役割は、そのプロジェクトの進捗管理です。しかし、チーム・メンバーを集めての会議はなかったそうです。狭いスペースで顔を突き合わせて作業をしていてお互いの状況はよくわかっていたので、特に改めて確認する必要は無かったそうです。

IT業界ではめずらしくない、職位とチーム内の役割のずれ

IT業界では、特に、大手の下請けをしている会社では、会社中の職位とプロジェクト・チームの中の地位が逆転するのはめずらしくありません。その現象が発生する典型的なケースは、当初の計画より作業量が増えてしまって、空いている人を融通する場合です。たまたま、そのプロジェクトのマネージャやリーダーより高い職位の人が空いていて配属されることにより、逆転現象が発生します。

小林さんの証言したこのケースの場合は、特にそのような予期できない事情があったわけではなく、最初から逆転した状態でメンバーが決められています。他の業種の人は不思議に思うかもしれませんが、同業者である私などの場合「まぁ、そういうこともあるよな」という感じです。ある開発プロジェクトが終わると、運用担当者を残してほとんどの人がまた次のプロジェクトに流れていくのがこの業界の日常の姿です。土木・建築業界に似ているとも言われます。さらに、昨今の技術の進歩により、また、社会のいろいろな場所へのITの普及により、一つの開発プロジェクトの期間が短くなっています。非常に流動性の高い業種となっています。

そのため、会社の部署の単位で、職位の関係も崩さず、大小さまざまな開発プロジェクトに人を投入するのはほとんど不可能です。また、自社で人数が足りなければ外注も使います。外注が客先に行く、さらにその客先からそのまた先の客先に行く、というのも日常茶飯事です。

 
客先では離ればなれ 目次 リーダーと下請けでチームを構成