あらゆるメディア規制に反対し、言論・表現の自由を守る決議

 報道被害や事件に殺到しての集中豪雨的な取材、過剰な性・暴力表現に対する国民の厳しい声に乗じて、メディアに公権力による法的な規制を加えようとする攻撃が強まっている。

 「個人情報保護法案」は一昨年、与党が強引に成立させた改正住民基本台帳法をきっかけに、行政機関が保有する個人情報の保護を目的として、本来構想されたものである。しかるに先の通常国会に上程された同法案には政府、行政機関に対する具体的措置にはほとんど言及せず、民間分野への規制、とりわけ報道機関にも基本原則を適用するとして、メディアへの規制の狙いばかりがめだつ内容となっている。こうした法案が成立すれば、取材源の秘匿が脅かされ、情報提供者との信頼関係が崩壊し報道が萎縮する危険は一段と強まる。国民の知る権利に奉仕すべきメディアの役割を根底から損ねることにつながるものとなろう。秋の臨時国会での成立を断固として阻止する広範な取り組みが緊急に求められている。

 参院自民党を中心に準備されている「青少年社会環境対策基本法案」は『青少年にとっての有害環境』を規制するとして、『有害なるもの』の具体的な定義はなんら明らかにしないまま、放送番組や出版物へ総理大臣や都道府県知事が「必要な指導、助言、勧告、公表」をおこなうというものである。自民党案の言う「有害環境」を取り締まるための「青少年社会環境センター」が推し進めようとしているのは、国民への「文化浄化運動」の強制にほかならず、あたかも古代中国やナチス・ドイツの「焚書」をさえ連想させるほど前近代的な危険な発想としかいいようがない。

 政府の人権擁護推進審議会による「人権救済機関設置構想」もまた、本来国連の人権規約委員会から指摘されてきた公権力による人権侵害に言及するところきわめて薄く、もっぱら民間の「人権侵害」に行政機関が立ち入る道を開こうとするものである。とりわけメディアによる「人権侵害」を強調して、政府からの独立性のあいまいな公的機関が介入し、仲裁や勧告、公表をおこなうとしている。こうした構想が実現すれば、「過剰な取材」から「差別表現」に至るまで、任意とはいえ調査権限を持つ公的機関が表現・取材内容に深く立ち入ることとなり、報道の自由が大きく脅かされるであろうことは疑いをいれない。

 一方で私たちは、メディアによる人権侵害や報道被害、いき過ぎた性・暴力表現に対する世論の批判にはきわめて厳しいものがあることを十分に認識しなければならない。メディアによる自主努力の不足、自律の強化の必要性は私たちも機会あるごとに訴えてきたところである。私たちは「放送と人権等権利に関する委員会」(BRC)や新聞労連の提唱する「報道評議会」の確立、新聞各社の自主的委員会の機能をよりいっそう充実させることを求めるとともに、個々の報道機関経営者がこうした問題を、自分自身の問題としてより自律的な機能を発揮していくよう強く求める。

 しかしながら、公権力の監視を使命とするジャーナリズムにとって、公権力からの独立は絶対条件であり、公権力の規制の網がかかることはいかなるかたちであろうと決して容認することはできない。私たちは「個人情報保護法案」、「青少年社会環境対策基本法案」、「人権救済機関設置構想」のいわゆるメディア規制三点セットの法制化に断固として反対し、これを阻止する運動にメディアに関わる労働者の総力をあげて取り組んでいく決意を明らかにするものである。
 右、決議する。

2001年9月29日
          日本マスコミ文化情報労組会議 第40回定期総会