日本出版労働組合連合会
中央執行委員長 大谷 充
2017年6月15日、自民、公明与党両党は、参議院法務委員会での採決を省略する異例な形で共謀罪法案の本会議採決を強行し、与党両党と日本維新の会などの賛成により共謀罪が成立しました。この背後には、森友、加計両学園疑惑の追及から逃れ、東京都議会選挙に影響させたくないという、政府与党の身勝手な思惑があります。このような身勝手で異例な採決の強行は、今国会での共謀罪の成立は見送るべき、また両学園の疑惑を解明すべきとする多数の民意と、共謀罪法案に反対する多くの人々の声を踏みにじるものであり、民主主義を破壊する暴挙です。断じて許すことはできません。そして、これは2013年12月6日の特定秘密保護法、2015年9月19日の戦争法(安全保障関連法)に続く、三たびの暴挙であり、私たち出版労連は、この共謀罪の成立強行に強く抗議します。
この間、共謀罪法案について、対象となる「組織的犯罪集団」の定義や、何が犯罪行為にあたるかなどが国会で議論されてきましたが、何一つ明確になった点はありません。それどころか、迷走する答弁によって、一般の人たちが捜査対象となり、個人の内心の自由や言論・出版・表現の自由が脅かされる危険性が一層、浮き彫りにされました。共謀罪は、刑事法の原則「犯罪を実行に移した段階から処罰する」を大きく変える内容であり、捜査機関の判断次第で拡大解釈される危険性があらわになっています。
また、国会審議では、国民の不安や懸念に真摯に向き合わない、不誠実な政府答弁が相次ぎました。さらに、国連人権理事会の理事国でありながら、プライバシー権担当の特別報告者から「プライバシーや表現の自由を制約する恐れがある」と共謀罪法案に懸念を示されても、政府はこれに誠実に回答せず、根拠を示さない一方的な主張を繰り返すだけです。こうした不誠実な態度は真実の価値を失わせ、議会制民主主義そのものを破壊する行為であり、日本の国際的な評価を自ら貶めるものです。
なにより共謀罪により、私たちの生業である出版については、捜査機関の判断で業務が監視されたり、家宅捜査や証拠物件の押収が行われたりし、仕事そのものが脅かされる可能性があります。また、私たち労働組合の活動や運動も捜査の対象となります。これまでも、イギリスやアメリカでは労働組合や反戦運動が、共謀罪で取り締まられてきました。
戦前、治安維持法によって思想・信条の自由が踏みにじられ、言論・出版・表現の自由が奪われ、日本は戦争の道を進んでいきました。その末期には、治安維持法下最大の言論弾圧事件とされる横浜事件がでっち上げられ、多くの出版人が無実の罪で犠牲となりました。私たちは、そのことを決して忘れません。
私たちは、決して萎縮しませんし、忖度もしません。日本の民主主義が発展していくためには、基本的人権や思想・信条の自由が尊重され、言論・出版・表現の自由が力を発揮していくことが必要です。出版労連は、出版産業に携わるすべての人々、表現に関わるすべての人々、メディア関連の労働組合、そして幅広い多くの市民とともに、権力による言論統制・封殺を許さず、国民の知る権利と言論・出版・表現の自由を発展させ、平和と民主主義、そして日本国憲法を守るため、あらゆる言論統制・弾圧に怯むことなく、活動を旺盛に継続し、今後、共謀罪を廃止に追い込む決意を表明します。
以上