原告の小番(こつがい)さん、小林さん、松木さんの3人が所属する電算労東和システム支部(以下「東和支部」と記します。)は、私たち電算労の中の一つの支部です。

東和支部と会社の争議のこれまでの経緯は 東和支部のページ をご参照ください。

被告:株式会社東和システムは、システム開発などを営む企業としては中堅とされる規模の会社です。会社のWebページでは次のように紹介されています。

  • 設立 1972年11月2日
  • 資本金 2億7000万円
  • 売上高 61億300万円(2007年10月期)
  • 経常利益 1億3000万円(2007年10月期)
  • 従業員数 424名(男379名 女45名)

「名ばかり管理職」についてはファーストフードのチェーンなどのことがマスコミにも報道されました。実際には管理職としての権限を持っていない、それなりの待遇も受けていないのに、名目上管理職だからということで残業代が支払われないという問題です。この裁判も、それらと同様に残業代の支払を求める訴えを起こした民事訴訟です。

しかし、飲食業・小売業等と異なる点があります。原告の3人は東和システムの社内ではなく、客先に常駐して仕事をしています。客先は大手電機メーカー、もしくはその子会社のシステムインテグレータです。そこで開発されているシステムにかかわる作業をしています。派遣法に基づく派遣ではなく、システムの一部の開発の請負や、開発のプロジェクトの管理などの支援作業の委託といった契約で仕事をしています。会社の組織体系とは別に、現場のチームの指揮系統が存在します。

今回の裁判の主たる争点にはならないようですが、審議のやり取りの中では、この複雑な仕組みが偽装請負に相当する実態を生じているのではないかと思われる発言がありました。

IT業界の実態をよくあわらす例として、この日の審議の内容をレポートします。

プロジェクト・チーム

以下、原告の一人、小番(こつがい)さんの証言からの要約です。

東和システムの場合、受注した案件ごとにプロジェクト・チームが構成されます。プロジェクト・チームの規模は1人〜100人くらいまで様々です。プロジェクトには、プロジェクト責任者とプロジェクトリーダーがいます。

プロジェクト責任者は、通常、統括部長・部長・次長などの職位が担当します。一人で複数のプロジェクトの責任者を兼ねることがあります。プロジェクト責任者は、日常、東和システム社内にいます。

プロジェクト・リーダーは現場の責任者です。顧客に対する直接の窓口にもなります。会社は、顧客が携わるシステム開発の仕事の一部を受託します。プロジェクト・リーダーは割り当てられたプロジェクトのメンバーを預かり、その仕事を、顧客が定めたマスタ・スケジュールの範囲内で遂行します。

顧客には、そのシステム開発全体のプロジェクトのマネージャがいます。裁判の審議の中では詳しく述べられませんでしたが、IT業界の一般的な仕事の形態として、プロジェクト・マネージャは、マスタ・スケジュールの計画と実施、東和システムなどの外注の管理などに責任を持ちます。

外注のプロジェクト・マネジメント

ここからは、私が感じた疑問です。

大きな開発プロジェクトが複数のサブ・プロジェクトに分割されること、さらに、そのサブ・プロジェクトが外注に委託されることは珍しくありません。その場合、サブ・プロジェクトの範囲、予算、納期などを定めて担当する外注と契約し、そのサブ・プロジェクトの管理を外注に任せます。その仕事を請け負った外注は、その範囲内で結果を出すことに責任を負います。発注者から納期や要求仕様の他に細かく定められるものがあるとしたら、納品物の形態、たとえば設計書の書式などがあります。しかし、どのような方法で結果を出すのかについて、発注者からの指示はありません。

請け負った側は、そのサブ・プロジェクトの範囲(スコープ)、予算、納期の制限のなかで仕事を遂行して、利益を上げなければなりません。そのためには、人・ものなどのリソースの管理が必要です。それから、この業界の仕事の常として、「仕様変更」というものが発生します。大きな変更であれば、当初のサブ・プロジェクトの範囲にまで影響を及ぼします。そのことについての管理も必要で、「変更管理」という仕事が重要な、そして、プロジェクト・マネジメントに携わる人をもっとも悩ます課題となります。

小番さんの証言では、プロジェクト・リーダーに、プロジェクト・メンバーを選定する権限はないとのことでした。プロジェクトの予算については、この日の審議では誰からも言及はありませんでしたが、メンバーの人選もできないリーダーに予算計画を立てる権限があるわけはないでしょう。では、プロジェクト責任者はどうなのかというと、勤怠管理のことで審議で出た証言によると、現場のことなど知らないそうです。

では、だれが、プロジェクトの、外注として受託したサブ・プロジェクトのマネジメントを行っているのか、この日の審議を聞いていて結局最後までよくわからないままでした。

私は別の会社で、小番さんと同じように客先に常駐してシステム開発の仕事をしていますが、それぞれの外注の責任者の役割はもっとはっきりしているように思います。もっとも、二次請け三次請けで員数をそろえるために集められた人とその会社については責任も体制も何も無いですが。

 
目次 客先では離ればなれ